ノーカントリー [タイトル:ナ行]
No Country for Old Men (2007年)
監督:ジョエル&イーサン・コーエン
出演:トミー・リー・ジョーンズ、ハビエル・バルデム、ジョッシュ・ブローリン
コーミック・マッカーシーの原作を映画化した今年度のオスカー受賞作品。
ハンターは麻薬取引のもつれから砂漠に放置された200万ドルを手に入れるものの、無用の親切心があだとなり自分の命だけでなく妻の命も危険にさらし、彼を追う殺し屋は独自のルールの下、相手構わず殺人を重ね、事件を捜査する老保安官は、嘆くばかりで殺し屋を捕まえるどころか、犯行を阻止することもできず、死体の山ができていく。
まさに最近の日本社会を揶揄したような内容だが、舞台となるのは1980年のアメリカ中西部で、「ファーゴ」で犯罪者の愚かさを描いたコーエン兄弟が、今回は犯罪の不条理さを描いている。
やはり圧巻は、リアルターミネーターのごとく、無表情の殺し屋をおかっぱ頭で演じてオスカーを獲得したJ・バルデムで、自分以外にも追っ手を遣したからと依頼人を殺害し、金を回収したにも関わらず、約束したからと言って女を殺しに家を訪れたりと、一体何の為に行動しているのかわからない不気味さが強烈で、事実上の主役となっている。
他のコーエン作品と比べた場合、小説をそのまま映像化したという感じで、ブッラクユーモアもないので面白みには欠けるものの、訳もわからぬまま殺される者達や、その惨状を前に為す術もなくあきらめ半分の老保安官のドライな描写から、この時代の絶望感のようなものが感じられ、今またイラク戦争により同じ轍を踏むのではないかという危惧を抱かせる。
70~80年頃のアメリカはベトナム戦争の後遺症とばかりに犯罪が凶悪化、多様化した時代で、原題通りに“もはや老人の住む国でなくなった”アメリカ社会を冒頭と終盤の老保安官の言葉が代弁しているのだが、実際には、その後のアメリカ社会の治安は回復(安全地域と危険地域の住み分けができた)するわけで、むしろ、この映画を観て危機感を抱かなくてはならないのは、犯罪者の年齢性別、生活環境の境がなくなった日本社会の方であろう。
監督:ジョエル&イーサン・コーエン
出演:トミー・リー・ジョーンズ、ハビエル・バルデム、ジョッシュ・ブローリン
コーミック・マッカーシーの原作を映画化した今年度のオスカー受賞作品。
ハンターは麻薬取引のもつれから砂漠に放置された200万ドルを手に入れるものの、無用の親切心があだとなり自分の命だけでなく妻の命も危険にさらし、彼を追う殺し屋は独自のルールの下、相手構わず殺人を重ね、事件を捜査する老保安官は、嘆くばかりで殺し屋を捕まえるどころか、犯行を阻止することもできず、死体の山ができていく。
まさに最近の日本社会を揶揄したような内容だが、舞台となるのは1980年のアメリカ中西部で、「ファーゴ」で犯罪者の愚かさを描いたコーエン兄弟が、今回は犯罪の不条理さを描いている。
やはり圧巻は、リアルターミネーターのごとく、無表情の殺し屋をおかっぱ頭で演じてオスカーを獲得したJ・バルデムで、自分以外にも追っ手を遣したからと依頼人を殺害し、金を回収したにも関わらず、約束したからと言って女を殺しに家を訪れたりと、一体何の為に行動しているのかわからない不気味さが強烈で、事実上の主役となっている。
他のコーエン作品と比べた場合、小説をそのまま映像化したという感じで、ブッラクユーモアもないので面白みには欠けるものの、訳もわからぬまま殺される者達や、その惨状を前に為す術もなくあきらめ半分の老保安官のドライな描写から、この時代の絶望感のようなものが感じられ、今またイラク戦争により同じ轍を踏むのではないかという危惧を抱かせる。
70~80年頃のアメリカはベトナム戦争の後遺症とばかりに犯罪が凶悪化、多様化した時代で、原題通りに“もはや老人の住む国でなくなった”アメリカ社会を冒頭と終盤の老保安官の言葉が代弁しているのだが、実際には、その後のアメリカ社会の治安は回復(安全地域と危険地域の住み分けができた)するわけで、むしろ、この映画を観て危機感を抱かなくてはならないのは、犯罪者の年齢性別、生活環境の境がなくなった日本社会の方であろう。
はじめまして。TBありがとうございました。
同じようなことを考えている人はやはりいるものですね。
hashさんの記事を拝読しながら、頷いている自分がいました。
結びの
>むしろ、この映画を観て危機感を抱かなくてはならないのは、犯罪者の年齢性別、生活環境の境がなくなった日本社会の方であろう。
という言葉は胸に突き刺さります。
物事の結果には必ずその元となった原因があるはずです。それも単純ではなく複雑に絡み合った。それをひもとく作業が、今の日本には必要なのかもしれません。
by はなこ (2008-03-29 22:24)
はなこさん、こんにちは。
コメントありがとうございます。
政治の混乱状況をみるかぎり、政府に犯罪の連鎖についての危機感が感じられないのは悲しいですね。
はなこさんのおっしゃる通り、原因の究明が早急に必要だと思います。
by hash (2008-03-30 18:14)
Dsilberlingさん、nice!ありがとうございます。
by hash (2008-03-30 18:15)
トラックバックありがとうございました。
このようなヘヴィな作品がアカデミー賞を取るという米映画界は、何のかんの言っても社会に対する“能動的な意識”みたいなものは感じられます。
対して、お涙頂戴やテレビ番組の焼き直しばかりが罷り通っている昨今の日本映画界はいったい何なんだろうか・・・・という思いは募ります(まあ、もちろん少数の例外もありますが)。送り手も受け手も“問題意識”を持つことが面倒くさいのでしょうかね。困ったものです。
それでは、今後とも宜しくお願いします。
by 元・副会長 (2008-03-30 21:59)
元・副会長さん、こんばんは。
コメントありがとうございます。
日本映画はあまり見ないのでよくわかりませんが、社会派と呼ばれるような作品は最近ないように思います。
>“問題意識”を持つことが面倒くさいのでしょうかね
そうだと思います。
こちらこそ、よろしくお願いします。
by hash (2008-03-31 22:08)
TBありがとうございました。
この映画を見ているとどうしても日本で起きている犯罪を
連想してしまいます。シガーの不気味さを身近に感じます。
by miyuco (2008-04-06 10:05)
miyucoさん、こんばんは。
コメント&nice!ありがとうございます。
日本もいつ犯罪に巻き込まれても不思議でない国になりましたが、もしそうなった場合に病院で治療してもらえる保障もないのが、更に恐ろしいです。
by hash (2008-04-07 22:39)
こんにちは。
この映画の舞台となった時代背景も、
物語を理解するのには重要のようですね。
そういう所も予め少しでも調べてから観たほうが、
理解が深まるでしょうね。
by てくてく (2008-06-04 14:54)
てくてくさん、こんばんは。
時代が変わっても戦争が社会にいい影響を与えないのは同じですね。
人類は世界各地で同じ過ちを繰り返しているのだなと感じます。
nice!&コメントありがとうございました。
by hash (2008-06-06 00:27)
弊記事までTB有難うございました。
>この映画を観て危機感を抱かなくてはならないのは・・・日本社会の方
正に!
日本の凶悪犯罪は数字上は実は減っているのですが、動機が希薄だったり異常な殺人は明らかに増えていますよね。
現在泥棒は極めて殺人者に近い。昔の泥棒は顔を見られれば素直に謝るケースが多かったようですし(我が家に入った泥棒は数年後逮捕された時にこの家でも盗んだと自白しました、あばら屋だったのによく入ったものです)、当然「殺しとはどういうものか知りたかった」といった動機の殺人はなかったはず。
映画的には欠点もある作品と思いますが、母国を内省的に見つめる作品が次々出てくるアメリカ映画界はやはり捨てたものではないですね。
by オカピー (2009-05-17 03:53)
オカピーさん、こんばんは。
コメント&TBありがとうございます。
日本は「罪を憎んで人を憎まず」のお国柄ですから、犯罪対策がなかなか進みませんね。このまま、10年もすると、夜道を歩けなくなりそうです。
>内省的に見つめる作品
ただ、最近は世相の影響を受けやすいのか、2008年度の映画賞では、この手の作品が一切、評価されませんでしたね。
by hash (2009-05-18 00:40)